常日頃からお世話になっております。
ケンロクエンです。
おかげさまで第823回です。
小学生の……3年生か4年生だったかの頃、担任の教師がやたらディベートという言葉を使っていた時期がありました。
学校の方針なのかその教師の考えなのかは今となってはわかりませんが、少なくとも俺のクラスは朝の会が終わってから1時限目が始まるまでの間、週何回かディベートを行うことになっていました。
ディベートなんて言っても小学生の考える議題なんて可愛いもので、「カレーに入れるのは牛肉、鶏肉、豚肉のどれにすべきと思いますか?」とか「お昼休みはサッカーとドッジボールどちらが良いと思いますか?」なんてものばかりでした。
しかし、とある議題が学校全体を巻き込む壮大な論争を引き起こすこととなる……!
それは「運動会やマラソン大会などの運動系の行事は必要だと思いますか?」というもの。
あの瞬間ピシッと空気が張り詰めたのは俺の記憶が盛られているわけではないだろうと思います。
マラソン大会ってどこの学校にもあるのかどうかわかりませんが、少なくとも俺の地域では小中高とあり続け、そのどれもで不人気行事の筆頭候補でした。
なんせキツいし時期的に寒い。
だからといってジャージを着込めば走って暑くなった時に脱ぎ捨てる場所も無い。
とにかくしんどかったのを覚えています。
ですがあの時のディベートで注目されたのはむしろ運動会の方。
というのもその前年の運動会が引くほど大差が付いたから。
嘘か本当かわかりませんが、学校のクラス分けってかなり気を遣って行われているらしいですね。
少なくとも合唱コンクールなのにクラスにピアノが弾ける人が誰もいないとかは無かったですし、極端に身長差とかもなかったように記憶しています。
なので体格差もそれほど大きくならず、運動会でも拮抗した戦いになるというわけです。
いや、本当かどうかマジで知らないんですけどね。
その一方で侮れないのが子供の成長期。
昔は背の低い子と言えばあの子!なんて言われてた子がたった1年でググーンと背が伸びるなんてこともままあるわけで、そういったいろんな予測不可能な要素が重なったのか、前年の運動会はそれはそれは凄惨な結果となりました。
確か勝ったのは赤組だったのですが、4人で走れば赤赤白白の順番になるみたいなのが続出し、お昼ご飯を食べる頃には敗戦濃厚でめちゃくちゃ重い空気だったと思います。
もう午後の競技全部白組が圧勝するとか、最後の競技は特別に2億点!とかにならない限り勝てないみたいな圧倒的大差。
しかし午前で力を使い果たしたのか赤組はここから突然の失速、逆に追い詰められて尻に火のついた白組は猛然と追い上げて逆転こそなりませんでしたがギリギリのところまで食らいつく……なんてことはなく普通にボコボコにされました。
なんかもう桁が違ったもんね、得点の。
そもそも運動会というのが体育会系の独壇場なだけあって俺をはじめ陰キャの引きこもりには辛い行事であるのに加え、保護者を含めると数百人クラスの大観衆、さらに自分の成績が陣営の勝敗の行末を担うというエゲツないレベルのプレッシャーがかかります。
自分がダメでもクラスのヒーローが好成績を残せば我がことのように嬉しいですし、勝っても負けてもなんとなくその日が終われば達成感もありました。
ですがあの時は違いました。
クラスのヒーローが、白組の最終兵器が出る競技出る競技悉くでボコボコにされて帰ってくる。
当然俺や運動苦手組時は期待もワンチャンもなく無言の出兵。
いつしか応援の声もトーンダウンし、それに対して「みんなで応援しないと勝てないよ!」などと叱咤する教師に「お前がこういうクラス分けしたんだろうが!」と言わんばかりの冷めた視線……。
今でこそ「あれはヤバかった!」と昔の友人と話す時の鉄板トークになっていますが、当時の我々負けた白組にとってはトラウマもの。
もちろん学年が上がってクラス替えも行われたので今年がどうなるかはわかりませんが、危惧する気持ちは痛いくらいによくわかります。
さらに続く議題の提案者。
「運動が得意な子は普段の体育や休み時間にたくさん活躍してみんなそれを知ってるんだから、わざわざこういうこといらないんじゃないですか!?」
じわじわとそれでいて確実に広がる運動会廃止ムードに声を上げるのは担任の教師。
「これはクラスのみんなが1つになるため「でも先生争い事はダメって言ったじゃん!!」
さぁ!盛り上がって参りました!!
学校行事といえど子供にとっては死闘です。
勝敗の結果は生命より重い……!そのレベルの空気感が運動会などのクラス対抗の度に流れているのはみなさんも経験があるはず。
もちろん運動会賛成派もいますがそのほとんどが運動得意組かつ去年の赤組出身者。
所詮勝者に我々敗者の気持ちはわからぬ!とばかりに反対派が一致団結するも朝の会から1時限目の間しかない時間ではとても収拾がつかず、次回のディベートに持ち越しに。
そう、それが良くなかった。
1日あれば十分とばかりに隣のクラスから上下の学年に、そして学校中に広まった運動系行事不要論は学校のあちこちで激論を交わし、休み時間の度に運動会かポケモンの話で持ちきりでした。
ポケモン本当強いな。
そして迎えた数日後のディベートの日、あからさまに投げやりの爆速で終わった朝の会から足スタート!
しかしここまでの数日間に不要派の呼びかけというロビー活動が行われた結果、満場一致で決まった運動系行事不要という結論。
やはりまとめて無くせばマラソン大会も消せるというのは魅力的過ぎた……!
アレだけ白熱したんだから今回も長引くだろうと思っていた担任の教師もこの秒で決まった結果に目を白黒させて狼狽。
さらに別のクラスでも同様のことが起きて学校の各所で運動系行事不要論が巻き起こり、ついには「各クラスで1時間使ってディベート」という結果に!
当然のことながら俺のクラスは爆速で不要と結論付けられ、後の時間はひたすら如何に運動系行事が不要なのかを話し合う地獄のディベート。
このまま運動系行事は無くなるのか!?何か改革は起こるのか!?くたばれマラソン大会!
そんな権謀術数渦巻くなか運動会は……問題無く行われました。
決め手は「1or6年生にとっては最初or最後の思い出だから」というもの。
そう!学生という生物は年に1度の〜とかこれが最後の〜的な思い出に弱い!
トドメに運動会は6回あるけど今のメンバーでできるのは今年が最初で最後というダメ押しの一言。
最初の思い出、最後の思い出、これを奪うことは許されない!
ケガ、病気、天災などで奪われることはあっても、奪う側になってはならないという学生にとって絶対不可侵の不文律!
これを出されるならば、折れざるを得ない!
この後この運動系行事不要論は急速に消えていき、そして今ではあの日の一方的な虐殺レベルの運動会が話のネタとして今を生きていることを思えばあそこで運動系行事を無くさなかったのは正しかったのでしょう。
でもね、先生。
やっぱマラソン大会は無くしても良かったと思うんだ。
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